医療関係者

⑤ホスピタリティ

ホスピタリティ

院長 是永大輔


 2020年の東京オリンピック開催が決まりましたが、その招致プレゼンテーションでは、滝川クリステルさんがおもてなしの心をアピールして話題となりました。おもてなしは、英語ではホスピタリティ、その語源はホスピタルにあります。おじぎや握手などは相手に不快感を与えないための最低限のマナー、その行為に思いやりの心が加わるとホスピタリティになります。ホテルや銀行やデパートで働く人はホスピタリティの精神を十分理解しており、いつも丁寧な接客態度で顧客のストレスを和らげようと努力しています。
 近年、医療界でもホスピタリティへの関心が高まり、どの医療機関でも患者さんを患者さまと呼ぶようになりました。それが意識改革の第一歩になったことに異論はありませんが、まるで「医療もサービス業、お金を払う患者さんを~さまと丁寧に呼びましょう。」と顧客に媚びているようであり、違和感を抱いていました。事実、広辞苑には、様(さま)は、「氏名などの下に添える敬称」のほかに「近世、遊里語で通例、女から男を指す」と書かれており、「~さま」と呼ばれるときには、相手方にはお金を戴こうという魂胆が秘められていたわけです。演歌歌手の三波春夫は、生涯「お客様は神様です。」と言い続けました。「お客様は神様のつもりでやらなければ芸ではない。」という芸の本質に関する彼一流の表現であったらしいのですが、「金銭的な報酬を与えてくれる観客を神様と持ち上げている。」という真意とは異なる評価も受けていました。
 我々の病院を訪れる患者さんの多くは、病気や不安を抱えて、精神的にも肉体的にも敏感になっています。患者さんに優しさや心地良さが伝わると医療に対する信頼感と安心感が生まれます。しかし、病院のホスピタリティ教育は必ずしも満足できるものでなく、白衣を着ると、往々にして患者さんにぞんざいな言葉遣いになることや細やかな対応に欠けることも少なくありません。丁寧な言葉遣いで、異口同音に患者さんを「~さま」と奉ることとホスピタリティは全く別の次元のことなのです。
 中津市民病院の理念は、「こころをつくした最高の医療」と「ふれあう看護」であり、職員一人一人が ”患者さんの立場で考える!“という原点を忘れないことが大切です。人と人との接点が希薄化している世の中で、医師に求められるものは、Science(知識)、Arts(技能)、Humanity(人間性)です。「我々ができるホスピタリティとは何か?」ということを研修医の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

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