医療関係者

⑥進化しよう

進化しよう!

院長 是永大輔


 We must change to remain the same.~変わらずにいるためには、自ら変わらなければならない~これはイタリア映画「山猫」のラストシーン、時代に合わせた生き方ができずに没落の道をたどる貴族が、自らの老いと死を実感しながらつぶやく言葉で、剛腕・政界の壊し屋の異名を持つ小沢一郎氏が好んで用いるフレーズです。元首相の小泉純一郎氏は、~生き残るのは強いものでも賢いものでもなく、変化し続けるものだ~というダーウィンの言葉を愛用していました。稀代の政治家が放つ信念とほど遠い風見鶏的な意味合いに違和感を禁じえませんが、「自分の信条を変えないで生きていくためには、時代の変化に合わせてフレキシブルに対応していくことが必要、特定の考え方や枠組みに固執し続けて、環境の変化に適応できないのは愚か者」と戒めているような気がします。
 しかし、人は誰しも同じ場所にとどまるほうがずっと楽なもので、変わり続けることはとても難しいものです。たとえば、AKBのようなアイドル歌手でも、デビューすることより2年、3年と歌い続けることのほうがはるかに難しく、その地位を守るために脱皮し続けているに違いありません。かつてエースとして君臨した野球人も、やがて速球派から技巧派へ手法を変えていかざるをえないのは必定です。第二次世界大戦で大日本帝国陸軍は欧米列国の自動小銃や機関銃に対して明治後期(38年)に採用された三八式歩兵銃で戦い、海軍もまた戦艦大和・武蔵という大鑑巨砲主義に頼りすぎたため劣勢を余儀なくされました。白兵銃剣主義と艦隊決戦で戦い抜いたという日露戦争の成功体験から抜け出せず、それまで通用していた作戦から切り替えられなかったことが敗因ともいわれています。時代の変化とともに方法論は変わるわけであり、そう考えると、「自ら変わる」ことは「進化する」ことと言ったほうがよいのかもしれません。
 現代の医療は大きな変革の時代にあります。当院も独法化によって生まれ変わり、急性期病院として脳卒中・循環器・救急・感染とフィールドを広げて進化し続けています。研修医諸君にも、これから後期研修、認定医、専門医、学位取得と幾多の選択が待ち構えています。それぞれの場面で、常に自分が本当にしたいことを続けていくためにはどのように進化すべきかを考えてください。今後の医療に求められるのは科学的な見識をもつ臨床医であり、知識や技術を磨くだけでは平凡な医師に終わります。卒後臨床研修を通して、「何故?」と問う素朴な探究心、「なるほど」とうなずく素直な心、「それなら」と行動する実践力を養い、何事にも柔軟に対応できる医師に成長することを願っています。

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